ヒゲおやじ先生の脳コラム

2017.11.24

やり返しの恐怖

「やられたからやり返しただけ」がエスカレートするのはきょうだいゲンカでもおなじみの光景ですよね。実はそこに脳の癖があるという今回のお話は必読です!

手押し相撲の実験

ロンドン大で体性感覚を研究しているウォルポートらは、興味深い実験を報告しています。
まず二人にペアになってもらいます。それから、向き合ってもらい、相手の手を交互に押し合います。いわゆる手押し相撲ですね。
このとき、圧力センサーを使って押す力が調べられるようにしておきます。
それから、それぞれの耳元で「相手に押されたのと同じ強さで押し返してね」とささやきます。
耳元でささやいているので、相手には聞こえません。なので、相手はどんなルールで押し返してくるのかわかりません。

やられた分、やり返すと実際には1.4倍

さて、この押し合いはどうなったのでしょうか?お互いが同じ力で押し返しているのだから、力の強さは変わらなかったのでしょうか?
結果、実際に押し返している力は、押された力の1.4倍になっていました。
押されて押して(ここで1.4倍)、押されて(さらに1.4倍)押して(さらに1.4倍)、押されて(さらに1.4倍)押した(さらに1.4倍)ときには、なんと1.4×1.4×1.4×1.4×1.4≒5.38倍。当初の5倍以上の力になっていたのです。
8回目には15倍。最初軽く押す程度だったものが、ものすごい勢いで押し返しあう、ほぼケンカ。すさまじいバトルにエスカレートしていくのです。

「目には目を」は恐ろしい

お互いやられた分をやり返しているだけ。等倍返しをしているつもりなのに、押し合いはすさまじくエスカレートしていく。
けんか、ネット炎上、中傷合戦、いじめ、テロ、ヘイトスピーチ。
スタートは小さなことであっても、やられた分だけやり返していれば、惨劇が簡単に生まれてしまうのです。

われわれは損失忌避性を持つ

人の脳は損失忌避性(きひせい)を強く持ちます。損失忌避性とは、文字どおり損失を忌み嫌い避けようとすることです。
たとえば、私とあなたがコイントスゲームをするとします。表が出たらあなたの勝ち、裏が出たら私の勝ち。裏が出たら私に1万円を支払わなければいけない。
このルールのとき、表が出たらいくらもらえる条件なら、このコイントスゲームに参加しますか?もちろん参加しないもあり、自由です。
…8千円なんて嫌ですよね。1万円でも嫌ですよね。なぜわざわざ損のリスクを冒さなければいけないのか。
実際の調査では、2万円くらいから参加してもいいという人が増え始め、日本では3~4万くらいが平均になります。つまり、損と得が1:3~4でようやく釣り合うわけです。わたしたちは、それだけ損失を大きく見積もり、受けた侵害を大きく評価してしまうのです。
だから、「やられた」分を思いのほか大きく評価してしまい、同じだけやり返せば、とんでもないことになる。こういう事実は学校や家庭でしっかり教えておいたほうがいいのではないでしょうか?
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