ヒゲおやじ先生の脳コラム

2017.11.30

よき努力を見せよう

「下手がうつる」などと冗談まじりに憎まれ口を言うことがありますが、実は根拠がありそうだというのが今回のお話です。わが身を振り返りながらどうぞ。

ダーツの予測実験

最近、情報通信研究機構の池上先生らが興味深い実験をしました。下手な人を見ると、自分も下手になってしまうかもしれないというのです。
実験では、ダーツのエキスパートたちに、ダーツが下手な人のビデオを繰り返し見せます。どこに当たったかは見えません。この時、この下手な人の投げ方だと、中心からどのくらいはずれるのかを予測してもらいます。そして、毎回結果を示します。
すると、さすがはエキスパート。どのくらいはずれるかの予測の的中率が上がっていきます。

※この記事は、「ほほえみお母さん&お父さん」2015年5月号に掲載されたものです。

内部モデルが出来上がる

しかし、予想の的中率が向上したのと引き換えに、エキスパートたちの命中率が下がってしまいました。
わたしたちは、ダーツなどの運動技能を身につけていくとき、繰り返し練習します。この間、投げた結果からフォームやリリースポイント、矢の角度、力の入れ方などを調整します。投げるさなかにも結果を予測し、予測に合わせた微細な修正を繰り返します。
この繰り返しの結果、脳の中、とりわけ小脳にダーツ投げのための「ネットワーク」が出来上がっていきます。適切な脳細胞のつながりだけが作動し、余計なつながりが作動しないネットワークです。
このネットワークを脳科学では「内部モデル」と呼んでいます。そして、この内部モデルの出来が、ダーツの成績を決め、スムーズでなめらかなフォームを生み出すと考えられています。

へぼを見るとへぼになる

内部モデルは、他人の結果の予測にも使われていると考えられています。このフォームでこの力の入れ方なら、こうなるだろうという予測は、同じ内部モデルを逆読みすることで行われると考えられているのです。
だから、下手な人の結果がうまく予測できるようになると、投げるための内部モデルにも微妙な狂いが生じてしまうのです。
プロ野球大リーガーのイチロー選手は、「自分のバッティングに影響するため、下手な人のバッティングは見たくない」と言ったことがあるそうですが、さすがの慧眼というべきでしょう。

努力の方法の記憶も技の記憶

ところで、「記憶」をおおまかに分けると、言葉で言える記憶(陳述記憶)と言葉で言いあらわしにくい記憶(非陳述的記憶)に分けることができます。
昨日の出来事とか、歴史の年号などは言葉で言える陳述的記憶で、ダーツやバッティングは非陳述的な記憶です。非陳述的な記憶は「技(わざ)の記憶」「手続き記憶」「方法の記憶」などと呼ぶこともあります。
数学や物理などは解き方を覚えるわけで、たぶんに方法の記憶ですし、勉強の仕方を身につける、努力の仕方を身につける、というのも方法の記憶です。ですから、ダーツで起こったことが数学や物理、勉強の仕方や努力の仕方でも起こる可能性があります。
へんな解き方、へんな勉強の仕方、へんな努力の仕方に接していると、へんな方法が身についてしまう。逆にいい解き方、いい勉強の仕方、いい努力の仕方に接していると、いい方法が身につきやすい、子どもにはよき努力を見せましょう。
  • ポピー公式HPトップ
  • ポピー子育ておうえん隊
  • 幼児向け連動動画
  • 高校入試情報
  • ポピっこアプリ紹介
  • 公益財団法人 日本教材文化研究財団