デジタル教育時代の子どもの学び

2021.12.01

齋藤 孝先生が教える「読解力を伸ばす家庭での学び」

齋藤 孝先生が教える「読解力を伸ばす家庭での学び」

子どもの読解力を伸ばすために家庭でできることは、どのようなことなのでしょうか。読解力について多くの著書がある、明治大学教授の齋藤 孝(さいとう たかし)先生にお話をうかがいました。デジタルと紙の学習、それぞれの利点についても教えていただきました。

読解力があれば、人生がうまくいく。読解力を伸ばすための勉強法とは?

齋藤先生はご著書のなかで、「読解力は、人生を生き抜く力」と書かれています。「読解力」とは、どのような力なのでしょうか。

 

読解力とは「文章を読み解く力」を指しますが、それだけではなく、私はもっと広い意味でとらえています。読解力は、あらゆる場面を乗り越えていく力のもと、つまり「人生を生き抜く力」になるのです。

読解力があれば、人の気持ちを深く理解できるようになり、「共感力」がつきます。また、たくさんの情報の中から必要なことを読み取る「要約力」、それらを伝える「伝達力」もつきます。さらに、人と意見交換する際の「コミュニケーション力」もつきます。これらはすべて、「人生を生き抜く力」。この力は、学校生活ではもちろん、社会に出て、新たな環境に置かれたときにも非常に役立ちます。読解力をもっていれば、勉強だけでなく、その先の仕事や人間関係も、うまくいくことでしょう

「読解力」を伸ばすためには、どのような勉強法が有効ですか。

 

おすすめの方法を三つ紹介します。一つめは「音読をする」ことです。紙、デジタルに関わらず、書いてある文字をきちんと追い、くり返し音読することで、細かいところまで頭に入ります。黙読は、一部の単語を拾いながら読む「飛ばし読み」をしてしまいがちです。重要な語句を見落としたり、単語と単語の関係性を誤って解釈したりと、悪い飛ばし読みが癖になると、文章の意味が正しく理解できず、読解力が伸びません。

 

二つめは「話のあらすじを言う」ことです。「この話は何が言いたかったか」という、あらすじを言うことで要約力が身につきます。最初は親が「それで?」「どうしてそうなったの?」などと問いかけ、話すきっかけを作ってあげましょ

う。要約力がつけば、テストでも問題の意図することがすぐに理解できるようになります。

 

三つめは「印をつけながら読む」これは紙ならではの勉強法ですが、文章を読むときに、大事なところや面白いところに線を引いたり、マークをつけたりして、手を動かしながら心も動かして読むことが大切です。重要なところを意識して読めるようになれば、読解力向上につながります。

子どもの読解力を伸ばすために、親はどのようなことに気をつければよいでしょうか。

 

読解力を伸ばす材料は、家庭の中にたくさんあります。新聞もテレビも漫画も、大いに活用しましょう。親子で同じものを見たり読んだりして、同じテーマで会話をすることが大事なのです。テレビや漫画は、肩の力を抜いておもしろがったり、楽しんだりできるいい教材です。「どんな話だと思う?」「この人は何が言いたかったのかな」「このあと、どうなる?」と、親子であれこれ話し合いましょう。読解力は家族との対話ではぐくまれていきます。

身につけるべき知識は紙、情報収集はデジタルで。 それぞれの特性を活かした学習を

今、学校では紙だけでなく、デジタル端末を使った学習が本格的に始まっています。そういった学習スタイルについて、どのようにお考えですか?

 

児童生徒が一人一台の端末を持つのは、いいことだと思います。デジタルの利点は、即座に情報を更新でき、かつ、膨大な情報を補充できることです。例えば、社会科で「関ケ原の戦い」を勉強するのであれば、戦いが起こった背景や人物同士の関係について資料やデータを検索し、知識をつなげていくことができます。デジタルは、情報収集のツールとしてどんどん活用すべきです。

 

ただ、紙とデジタルで得られる情報では知識の質がちがいます。画面をスクロールして見る情報は次から次へと目に入ってくる分、流れるように通りすぎていきます。しかし、紙の文字は固定化されていて、ページをめくって読んだり、書いたりする行為は五感や脳を刺激し、記憶が定着するという研究もあります。

 

また情報は紙に印刷されることでモノとなります。自分の手で書き込みをすると情報は「自分だけのモノ」になり、より深く刻みこまれます。そういった意味でもデジタルよりも紙の教材のほうが身につきやすいと考えます。

 

しっかりと身につけるべき知識は紙の教材で学び、調べものなどはデジタルでたくさんの情報を得るのがいいのではないでしょうか。

子どもが小学生の時期は家族にとっていちばん幸せな時間

デジタル教材が目覚ましい勢いで増えていますが、子どもの読解力は、紙によってはぐくまれるのではないかと思います。紙の教材を手にとって、その形や感触、重みを感じながらめくり、えんぴつで線を引いたり、印をつけたり、メモしたりして記憶に残るのです。

 

小学生のうちに、親が読解力の土台づくりをやってあげると、子どもはみるみる吸収します。何より、親子で同じものを見たり、会話を楽しんだりできるのは幸せなこと。家族で過ごす時間なんてあっという間です。ぜひ、お子さんとの対話を楽しんでください。

 

※本記事は小学ポピー親向け情報誌「popy f」に掲載された記事を転用しています

齋藤 孝(さいとう たかし)先生のプロフィール

1960年静岡生まれ。東京大学法学部卒。同大学院教育学研究科博

士課程を経て現職。著書に『声に出して読みたい日本語』(草思社)『読書力』『新しい学力』(岩波新書)等多数。NHKEテレ「にほんごであそぼ」総合指導。

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