ヒゲおやじ先生の脳コラム

2020.08.19

バッシングはエスカレートする

新型コロナウイルス感染拡大時期に、不当な非難を受けた人や施設がありました。なぜそんなことが起きるのか、今回のお話で学んで、今後の参考にしてくださいね。

白か黒かの偏桃体

人の脳には偏桃体(へんとうたい)といって、恐怖や不安にかかわる部位があります。たとえば、未知の病や得体のしれない恐怖に対して、逃げ出す、戦う、排斥する、フリーズする、といった反応を生み出す根源がここにあります。
なぜこのような反応をする仕組みが脳にあるかというと、人類の進化史上、そういう働きの強い人の方が感染症などに結果としてかかりにくく、生き残り確率が高くなったためと考えられています。
問題は偏桃体の活動の仕方で、あまりグレーゾーンがないことです。偏桃体は白黒をはっきりつけたがり、二値判断をしがちです。とっとと逃げ出すなど、素早い判断が恐怖下では重要だからです。
そのため、偏桃体は「少しは大丈夫」「まあ適当でいい」などグレーゾーンが苦手です。だから、排除となると徹底的に。忌避となると村八分。まあまあで済ませられないのです。

人の痛みに共感する脳

一方で、排斥されたり、忌み嫌われたりする人の、その心の痛みを感じとる脳部位もあります。島皮質(とうひしつ)、帯状皮質(たいじょうひしつ)、内側前頭前皮質(ないそくぜんとうぜんひしつ)などです。たとえば、人がいきなり殴られている映像などを見せると、この部位が活動します。
私たちは、自身や仲間を守るため、恐怖を大きめにとらえ、素早く逃げ出したり、反撃したり、忌避したりすることで、生き残り確率を高めてきました。しかし、その一方で、他者の痛みを思い、仲間をいたわることでも、また生き残り確率を高めています。人類は「類」として生きることで力を発揮してきたのです。

バッシングのお墨付き

しかし、殴られた映像に「この人は悪事を働いた」などとテロップを入れると、痛みに共感する脳部位の活動は消えさります。それどころか、快感系が活性化する場合すら出てきます。浮気バッシング、自粛破りバッシングなどもこういう脳活動だと思われます。
私たちは未知の恐怖に過剰に反応する傾向を持ち合わせている。それはたくさんの感染症や危険を避けるための合理的な仕組みで、致し方ない。一方で、私たちは仲間を大切にすることで、生き残り確率を高めてきた歴史も持つ。そのために、他者の痛みを共有できる脳の仕組みを持つ。ただし、この仕組みは、相手が痛みを感じるのも致し方ない、当然だ、といったロジックが存在すると、途端に働きを止め、相手に罰を与えることが快感になってしまうのです。

倍返しは地獄への道

こんな実験があります。人がペアになって相手の手を交互に押します。この際、「相手に押されたのと同じ強さで押す」というルールをそれぞれの人に伝えます。相手がどういうルールで押し返しているのか、わからないようにして。
すると、押す力は回を重ねるごとにおよそ1.4倍に。8回目には15倍になってしまいます。
「目には目を」は恐ろしいのです。やられた分をやり返したつもりでも、より強くやり返してしまう。同じにならないのです。だから争いは常にエスカレートしやすいのです。
まして「倍返し」ともなれば、とてつもないことになってしまいます。地獄への道。右の頬を打たれたら、左の頬を差し出せ、とはいいませんが、手加減するくらいで「等倍」ということは、知っておいたほうがいいと思います。

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