ヒゲおやじ先生の脳コラム

2017.12.21

遺伝の影響の研究

遺伝の影響という言葉に、身構えてしまうかもしれませんが、今回は、環境要因も含めて考えると…というお話です。今後の方針づくりの参考になりますよ。

研究の対象は?

九州大学の山形先生らは日本人の学力、学歴、収入に与える遺伝の影響について研究しています。 20~60歳の双生児1006名(一卵性738名、二卵性268名)を対象に、「中学3年生時の学力」「教育年数」「現在の所得」についてウェブ調査を行いました。

※この記事は、「ほほえみお母さん&お父さん」2017年11月号に掲載されたものです。

研究の方法は?

一卵性双生児は一つの卵子がふたりになったので、遺伝子は全く同じです。一方で二卵性双生児は異なる卵子から生まれてくるので、普通のきょうだいと同じ、遺伝子の一致は50%になります。 たとえば学力試験を行い、その点数を、横軸に兄、縦軸に弟などとして、一卵性双生児、二卵性双生児に分けて点を打ちます。すると図のように、一卵性の方が似ているはずだから真ん中に寄った図、二卵性の方は一卵性よりは似ていないだろうから散らばった図になるのが、直感的にわかるかと思います。

そこでこの一致度を相関係数で示します。相関係数は完全一致で1、完全にバラバラで0になります。たとえば一卵性双生児の相関係数が0.7、二卵性が0.58だとすると、0.7=(遺伝の影響)+(共有環境の影響)、0.58=1-2(遺伝の影響)+(共有環境の影響)となり、(0.7ー0.58)×2で遺伝の影響が算出できます。また、その値を0.7から引けば共有環境の影響が算出でき、1から0.7をひけば、その他の環境(非共有環境)の影響が算出されます。

研究結果は?

こうして計算した結果、「中学3年生時の学力」「教育年数」「現在の所得」は、どれも遺伝の影響が3割前後、共有環境(=家庭環境)の影響が4割程度、非共有環境(=個々人が独自に経験する環境)の影響が3割弱となったわけです。ここで注意していただきたいのは、遺伝の影響とは、「親が~だったから子も~」を意味しないことです。その人が生まれ持っている遺伝子の組み合わせで説明できる割合を遺伝率と呼んでいることから、遺伝の影響はむしろ「元来のその人らしさ」に近いものです。

遺伝の影響は歳をとるほど大きくなる 非共有環境の影響は…

さて、山形先生らはこの研究で、歳をとるにつれ、遺伝・共有環境・非共有環境の影響が変わってくることを指摘しています。 たとえば「所得」は、20歳では遺伝の影響が2割程度だが、40歳では6割弱まで大きくなる。一方で家庭環境の影響は20歳では7割程度だが、40歳ではほぼ0になったそうです。 興味深いのは、「中学3年生時の学力」には及ぼす影響の少ない家庭環境が「教育年数」に影響を与えており、同時に「(初期の)所得」にも強い影響を与えいるということです。実は、遺伝率の研究を見ると、論理的推論能力の遺伝率は68%、音楽92%、美術56%、数学87%、スポーツ85%で、いずれも家庭環境の影響は0%と、家庭の努力がむなしくなるような数字が並びます。しかし、中学3年生時の学力を高めるべくあれこれ教育環境を与え(これは非共有環境にあたります)、教育年数を伸ばそうとする家庭の努力は、少なくとも20~30代の所得を高めるのには役に立つようです。
  • ポピー公式HPトップ
  • ポピー子育ておうえん隊
  • 幼児向け連動動画
  • 高校入試情報
  • ポピっこアプリ紹介
  • 公益財団法人 日本教材文化研究財団