ヒゲおやじ先生の脳コラム

2017.12.05

努力をほめる

以前、うれしいほめ言葉を聞いた「お子さまなんでもランキング」で1位だったのは「がんばったね」。子どもたちが選んだ言葉は今回のお話と関係ありそうです。

ドゥエックの実験

スタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエックらは、5年生400人余りを対象に面白い実験をしています。

まず彼らは子どもたちに比較的簡単な図形パズル問題を与えます。そして、テスト終了後、子どもたちに点数を伝え、ほめました。成績内容にかかわらず一人一人の子どもをほめるわけです。半分の子どもには「あなたは頭がいいんだね」といった具合に「賢さ」をほめます。一方、残りの半分の子どもには「一生懸命やったね」など「努力」をほめます。この二群は成績が均等になるようにランダムに選定します。

それから子どもたちには二種類のテストを与え、どちらでも好きなほうをやりなさいと伝えます。一方は最初のパズルより難しいけれど、やればとても勉強になるパズル、もう一方は最初のものと同じように楽にできるパズルです。

その後、子どもたちに極めて難しいパズルを与え、その様子を観察します。さらにテストを受けた後、ほかの人のテスト成績を見る機会を与えます。この時、自分より成績が良かった人の答案用紙を見るか、自分より悪かった人の答案用紙を見るかを選ばせます。

賢さをほめると……

最初の難易度の異なるパズル問題のどちらに挑戦するかを選ぶ課題では、賢さをほめられた子どものほとんどが楽にできるほうを選びました。その一方で、努力をほめられた子どもの9割近くが難しいパズルにチャレンジしました。

ドゥエックによれば、努力をほめられた子どもは、さらに努力を認められようと難問にチャレンジするが、賢さをほめられた子どもは、自分を賢く見せるために間違うのを恐れるようになるというのです。「あなたはもともと賢いのよ」「勉強できるはずよ」「さすがに頭がいいわね」といったほめ方は子どものチャレンジ精神や努力を奪ってしまう可能性があるのです。

賢い人は他人をけなす?

次の実験の結果はさらに示唆的です。やたらと難しい問題を目の前にしたとき、賢さをほめられた子どもたちは比較的早くあきらめたのですが、努力をほめられた子どもたちは、なかなかあきらめずこの難問に熱心に取り組んだのです。子どものチャレンジ精神を育てたければ、その努力をほめることです。

もっと考えさせられるのは、この難問にチャレンジした後で、子どもたちに他の子どもたちの答案用紙を見せる機会を与えたときの結果です。自分より成績が良かった子の答案を見ようとするか、悪かった子の答案を見ようとするか。

結果、努力をほめられた子どもたちは自分より良い成績の答案を見ようとする傾向が強く、逆に賢さをほめられた子どもたちは、ほぼ全員、自分よりテストの出来が悪かった子どもの答案を見ようとしました。賢さをほめられた子どもたちは、自分より出来の悪い答案を見ることで、自尊心を守ろうとするのです。子どもの賢さをほめつづけることは、自分より下の子を見つけては自分の賢さを確認するという、しょうもないモチベーションをつくってしまいがちなのです。

そして出来なくなっていく……

ドゥエックらは最後に、最初の図形パズルと同じくらいの難易度のテストを子どもたちに実施しました。 その結果、努力をほめられた子どもたちは、図形パズル問題の成績が30%程度伸びたのに対して、賢さをほめられたグループは20%程度成績の低下が起こりました。努力をほめられた子どもたちは、自分の間違いを積極的に見つめ、間違いから学んでいくので成績が伸びていく。その一方で賢さをほめられた子は、自分の間違いを出来るだけ見ないようにして自尊心を維持しようとするので、間違いから学べない。パズルの解き方も向上しないと考えられるのです。実際、間違いから学ぼうという姿勢を持っている人は、エラーを見出した時に現れる脳波、エラー陽性電位が大きく、この大きさとその後の成績向上が強くかかわるとの報告もあります。

自分の間違いを積極的に見つけ出し、修正しようとする姿勢をほめること。その萌芽をほめることこそ子どもを伸ばすコツです。

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