ヒゲおやじ先生の脳コラム

2017.11.30

ワーキングメモリが知的能力の基礎

奇数月連載の「脳コラム」で毎回興味深いお話を教えてくださる篠原先生。今月は特別編として、子どもの脳の発達ピークのおさらいと、コラムにもよく登場するもののイマイチよくわからないワーキングメモリについて、お話をお聞きしました。

発達のピークが5歳前にある脳部位とこれからピークを迎えるところ

2008年に出た研究報告で、脳は部位によって発達のピークがおよそ三つのパターンに分かれることがわかりました。5歳前に発達のピークがあるところ、7~12歳くらいがピークになるところ、そして思春期からだらだらと発達するところです。 5歳前にピークがあるのは、顔の表情判断や語彙、好き嫌いや価値判断にかかわるところです。親の顔を覚えて、親から言葉を学ぶと同時に、「何かを知っている」「何かが好き」というアバウトな記憶と好き嫌いを一致させて、「なんとなくこういうことが好き」ということを決めていく。そうした発達をする幼児期は、何かができるようになることではなく、いろいろなことを好きになることが大切なんですね。 『ポピっこ』はそれを考えて、親子で一緒に楽しみながら、頭をしっかり使うこと、体をしっかり動かすこと、人としっかり関われることを好きになる機会を提供しています。 そして、その後の7~12歳くらいがピークになるところは、勉強すること、運動することに強くかかわる部位で、『ポピっこ』でよく出てくるワーキングメモリが含まれます。

ワーキングメモリって何?

では、ワーキングメモリとは何でしょう。一言でいえば、記憶や情報を一時的に保持し、それを組み合わせて答えを出す力で、勉強したり、仕事をしたり、人とコミュニケーションをとったりなど、知的能力の基礎になるものです。とはいえ、これではイメージしにくいですよね。そこで、二つのテストをやって、ワーキングメモリを実感してみましょう。

①だれかに一桁の数字を五つ言ってもらい、それを覚えて、逆から言ってください。
②「桜、梅、電車」と覚えてください。次に100から7を5回引いて、その数字を言ってください。それから、最初に覚えた三つの言葉を言ってください。
①は、数字を脳にメモして、逆から読みにいくという、記憶と作業を組み合わせたもので、ワーキングメモリの基礎形です。②は、何かを覚えて、間に余計なことをやり、また思い出すという、脳のメモ帳を多重に使っている、ワーキングメモリを入れ子状に使っている状態です。 やってみるとわかるように、これはめんどくさくて、嫌な脳の使い方なんですが、この頭の使い方がワーキングメモリを鍛えるということなんですね。小学1年生では読んでも短い文章しか理解できません。それが長い文章を理解できるようになるのも、最初の文章が脳のメモに入りながら処理し続ける力がついてくるからで、ワーキングメモリの力が伸びているからです。二桁どうしの計算ができるようになるのもそうですし、体育でも手順を覚えたりなどがあるので、すべての教科がワーキングメモリのトレーニングになっています。

ワーキングメモリに関わる脳部位は、図(左脳)の赤い部分。

脳のメモの容量には限度がある

日常の学校の勉強でもワーキングメモリを鍛えているというイメージを持てるかどうかが実は重要です。ワーキングメモリには扱えるメモの容量に限度があって、紙にたとえるなら3枚から4枚です。わかりやすく言うと、われわれは「あのこと」「このこと」「そのこと」ぐらいだったら、同時並行、または入れ子状態で処理できます。また、それくらいだったらトレーニングにもなりますが、それを越えるとストレスになるし、できないということになります。そうしたときに、元々使える脳のメモのイメージをしっかり持てていれば、この問題が今できないのは、自分の脳のメモでは○○をやりながら△△をすることができない、できない理由は○○が自動化していないせいだとわかるんです。 自動化というのは、無意識で脳のメモを使わなくてもできるようになるということで、自動化して脳のメモを使える状態にしていくというのが、スキルが身につくことであり、学習のプロセスです。

8歳の壁はワーキングメモリのつまずき

小学校のいわゆる8歳の壁とか9歳の壁は、だいたいワーキングメモリでつまずいているんです。何かが自動化されていないので、脳のメモがいっぱいになってできなくなってしまう。サッカーでたとえるなら、敵にフェイントをかけるようなプレーは、ドリブルを無意識にできるようになるまでくり返し練習しなければできないということです。壁にあたったとき、何をくり返しやって自動化すればいいか、サポートしてあげられるように、親御さんは『ポピっこ』の問題のパターンを覚えておいて、今できないでいるこの問題は、『ポピっこ』のあの問題のときと同じようなことだねとアドバイスできれば、子どもにとってすごく役に立ちます。あれとこれが同じという感覚は自分でもてると一番いいのですが、親御さんがちゃんとつかんでおくということがとても重要です。

生涯に渡って大切なワーキングメモリトレーニング

ワーキングメモリを鍛えること、つまり勉強などを通して脳のメモをしっかり使うということと、くり返しやっても大丈夫な頭を作っておくということは、学業から仕事まで将来的に重要です。さらにいうと、始めのほうでやったテストが実は長谷川式の認知症スクリーニングテストの一部だということからすると、物忘れが激しくなって受診するとワーキングメモリテストをやらされることになり、生涯に渡って重要な話になりますよ。
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